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執筆者の写真Kokoro

『Aile de lienー新たな絆と羽ばたく片翼ー Ange Vierge if episode vol.1“ramiel”』第2章

更新日:4月9日

前書き


Kokoroです。みなさん、大変長らくお待たせしてしまってごめんなさいです…

みなさん、第1章は楽しんでくださってありがとうございますです。たくさんの方々が読んでくださっていて、すごくびっくりしましたです。

さて、前回から1ヶ月ほどかかってしまったのですが、『Aile de lien』第2章なのです。 前回からここまで様々なことがありましたです…保存するのを忘れていてデータを消してしまったり、スマホさんを使って書き始めたり、一身上の都合でそちらに手一杯になってしまったりしてお時間がかかってしまったのですが、頑張りましたです。あれからレミエルちゃんがどうなるのか、どんなお話になるのか、乞うご期待なのです。…前回と同じであまり自信はないのですが、楽しんでいただけると幸いなのです。

また、今回からページの最後に、解説編と称して、物語の中の用語の基になった原作におけるその単語の設定や立ち位置などといった、ちょっとした小話も盛り込んでみたいと思いますです。私がいろんな部分においてあまり詳しくないこともあって、調べ足りなかった部分もあると思うので、物足りないものになっているかもしれないのですが、アンジュさんに詳しい方もそうでない方も、ぜひお楽しみくださいです。

第2章「二人目のイレギュラー」


「みんなおはよー!…って、みんなどうしたの?」

教室に入ってきた美海さんが、教室の騒がしさにすぐに気がついたように言う。

「…ねぇ大河君、みんなどうしちゃったんだろ?」

「いや美海、僕に聞かれても…本当にみんな、これは何の騒ぎ?」

顔を見合わせて心底疑問に思っているらしい大河さんと美海さんに、

「お二人とも!ようやくいらっしゃったんですね!」

「大変なのよ!それはもう前代未聞というか、あの子がよくぞここまでというか!」

…ユフィさんとソフィーナさんが、お二人に何やらお話をしている。…確実に言えることは、おそらくお話の内容は勘違いの産物である、ということだけだ。

「あうぅぅぅ…お二人とも、助けてください~…。」

その騒ぎの中心にいるらしい私は、そんな情けない声でお二人に助けを求めるしかなかった…


「レミエル、あなたにお客さんのようだけれど。」

そう言ってソフィーナさんが私に声をかけてきたのは、今からおよそ10分ほど前のことだった。

「ええと…し、失礼します…。」

入ってきたのは天羽さんだった。

あの後、天羽さんのご連絡先を伺った私は、すぐに大河さんに連絡をしてみた。美海さんとの時間を無駄にさせてしまうかな、と思ったけれど…でも、そのおかげで大河さんだけでなく、美海さんにも協力をいただく約束を取り付けることができた。

とりあえず、明日…つまりは今日になるわけだが、天羽さんにお話を伺いたい、ということだったので、善は急げということで、さっそく朝、教室に来られるかどうかを聞いてみてほしい、と言われた私は、天羽さんに確認を取ったところ、ぜひ伺います、ということだったので、その旨を大河さんにお伝えした。そんなわけで、約束通り天羽さんは来てくださった、ということなのだろうことは、簡単に想像がついた。

「あ…ええと、天羽さん、いらっしゃいです。」

「おはようございます、レミエル先輩…すみません、お待たせしてしまいました…。」

「い、いえ!私も、今来たところですので…。」

…この時、少なくとも私はーーーおそらく天羽さんも気がついていなかったのだと思う。

周りの空気が、何やら段々と変わっていったこと。


「…え?誰だろあれ?」

「レミエルちゃんの知り合い?」

「え、でもあんなやつ見たことないぜ?」

「先輩って言ってたってことは…下の学年の子かな?」


そんな中ーーー

「ーーー今のやり取り…雰囲気…レミエルさん、ついにあなたも理想の殿方を見つけられたのですわね!!」


ーーーフェルノさんの鶴の一声で、教室が一瞬固まりーーー

「………ええええええええええええええええ!?!?!?」


…そして、私と天羽さんは今のようにクラスのみなさんに囲まれてもみくちゃにされ、質問攻めを受けている…ということになってしまったのだ。

「あぁ、なるほど。そういうことか。みんなごめんね、ちょっと通してね。」

ソフィーナさんたちのお話を伺ってなのか、それとも私の叫びを汲んでくださったのかはともかく、大河さんが私の机に近づいてくる。

「あぁ、やっぱりそうか。君が昨日レミエルの話してたアルドラの子だよね?」

大河さんに声をかけられた天羽さんはというとーーー

「えっ…風渡…先輩!?あの…じゃあ…レミエル先輩の言っていたお友達って…!?」

…やっぱり、驚かせてしまったみたいだった。

実は、昨日の段階では、連絡をしていたお相手が大河さんであることを、私は天羽さんにお伝えしていなかった。天羽さんも、大河さんを前にしては声が出ないらしく、完全に固まってしまっている。

「あぁ、そんなに畏まらないで。僕も美海も、自分から協力したい、って言ったんだから。ね?…あ、二人とも、僕の方からみんなにどういうことか説明しても大丈夫かな?」

そんな様子を知ってか知らずか、大河さんがすかさずフォローに入る。

…やっぱり、さすがだと思う。

私は、天羽さんのお力になるどころか、混乱を招いてご迷惑をおかけしてしまった。

…少しずつ、自信がなくなっていく。

そうこうしている間に、大河さんはクラスのみなさんに説明を始めた。天羽さんはアルドラさんとしてのことで悩みがあって、たまたま通りかかった私がそのお話をお聞きしたこと。そのお悩みを払拭するために、私や大河さん、美海さんが協力することになったこと。

「…あの…ということはつまり…今のお話からすると、すべてはわたくしの勘違い…ということですの…?」

「まあ、そうなっちゃうね…。」

大河さんの返答に、みるみるうちにフェルノさんの 顔にかかる縦線が影を濃くするようになっていきーーー

「…お、お二人とも、本当に申し訳ございません!!」

フェルノさんが、私たちに向かってがばっ、と頭を下げる。

「ふぇっ…!?あ、あの…そんなに謝らないでください…。私も、みなさんにうまくご説明できなくて…。」

「いいえ、レミエルさんは悪くありませんわ!あぁ、罪のない方に頭を下げさせてしまうなど、ガーディーヴァ家末代までの恥です…この上は…」

…いけない。

フェルノさんは、確かに色恋沙汰といったことに非常に興味のある方で、たまにそれでびっくりさせられることもあるけれど、この人は赤の世界のヴァルキリーの家系に生を受けた人。それゆえに常に誠実であろうとするという心の持ち主でもある。放っておいたらどうなることやらわからない。私が声をかけようとした時。


「…あの…ガーディーヴァ先輩…でよろしかったでしょうか…?」


天羽さんが、声を上げていた。

「ええと…その…僕こそ、本当にすみませんでした…。…役に立たないアルドラの僕がこんなところにいることすらおかしいのに…こんな騒ぎを起こしてしまって、みなさんに…何よりもレミエル先輩にご迷惑をおかけしてしまって…レミエル先輩に声をかけていただいて、少なからず浮かれていたのかも…やっぱり僕はーーー」


「ーーーあ、あの…天羽さん!」


気がついたら、私は声を出していた。

天羽さんのこの先に続く言葉。

それはきっと、ご自分を傷つけるための言葉。

かつて私が、自分に向けてぶつけ続けたもの。

何かをしたい気持ち、こうなりたいと思う気持ち、そのために行動を起こしたいと思う気持ちを、いつまでもいつまでも縛り続け、そしてほとぼりが冷めた頃には、すべてに対して諦めという気持ちしか抱けなくなる、そんな自分自身への枷。

「…それ以上はだめです…ご自分をそんなに追い詰めちゃだめです!!

私は大丈夫ですから…みなさんも、天羽さんのことを悪く言ったりしませんから!!

ーーーだから…役に立たないとか、そんなこと、言わないで…。」

ーーー私は、天羽さんの気持ちはわからない。

私の言っていることは、彼にとってはそれこそお節介かも知れない。

ーーーでも、彼に声をかけたのは私だ。

あの時あの場所で、閉ざそうとした心に入っていったものは私だ。

ならば、私には閉ざした心に入っていった者として、しなくてはならないことがある。

また彼が心を閉ざさないように。

彼がしっかりと前を向くことができるように。

そのために、私は声を上げなくてはならない。

上手く言えるかではない。上手くなくても言わなくては。

あの時に見た彼の涙と、彼の役に立ちたいと思った自分に、

ーーー絶対に、嘘はつきたくなかった。


「ーーーよく言ったね、レミエル。」


大河さんが、私に向かって、いつもの笑顔を浮かべて言う。


「友達がこんなに頑張ろうとしているんだ。それならーーー」

「ーーー嫌だって言われても手伝うのが、お友達だよね。」

「後輩が困っているならーーー」

「助けてあげるのが、先輩だよねーーー」


大河さんと美海さんの言葉が、ぴったりと重なる。

お二人は、握っていた手をもう一度しっかりと握り直して、もう片方の手を天羽さんに向けて差し出す。


『改めて、よろしくね。一緒に頑張ろう。』


天羽さんの目から涙が伝う。

彼は深く頷いて、お二人の手を握る。

…よかった。

きっと彼の涙は、昨日、私に見せてくださったものと同じ。悲しいから流すものではなく、心に響いたものに対して流す涙。

ーーーきっと、もう大丈夫。

私は、輪を作る三人を見て、そう思うことができたのだったーーー


お昼。

あの後、ホームルームの時間になってしまい、お話どころではなくなってしまったことで、詳しいお話をお聞きするのはお昼の時間に、ということになり、私たちは学食に集合することになった。

「…さて、しかしどうしたものやら…。」

千尋さん特製のお弁当をつつきながら、大河さんが言う。

「どうなさったんですの?」

円卓状のテーブルで大河さんと天羽さんに挟まれる形で座り、スコーンにジャムを塗っていたフェルノさんが、大河さんに聞く。

どうしてフェルノさんがここにいるのかと言えばーーー


「ーーーわたくしにもお手伝いさせていただけませんか?」


フェルノさんがそう聞いてきたのは、お昼になって、さて学食に行こうと思った矢先のことだった。曰く、迷惑をかけてしまったので、何か力になれないだろうか、ということだったらしい。

私は迷惑とはまったく思っていなかったのだが、それでも、人数は多いに越したことがないということで、フェルノさんにも協力をお願いすることにした。

「うん…そもそもの話なんだけど、かなりの矛盾があるな、って思って。」

「矛盾…アルドラとして呼ばれてるのに、リンクができないってことだよね?」

大河さんを挟んでフェルノさんとは逆側に座っている美海さんが、オムライスの中のピーマンをスプーンでお皿の端に追いやりながら言う。

「うん、その通り。そもそも、この学園はプログレスとαドライバーの育成施設っていう側面が一番強い。そして、そもそもその資質がなければ学園に呼ばれることすらない。だから呼ばれているっていうことは、資質自体は確実にあるっていうことのはずだ。でも、リンクには一度も成功したことがない…。」

考えてみれば、確かに矛盾だらけだった。

プログレスとαドライバーのリンクとエクシードは、基本的に絆を深めわかり合うことでその力を増す。しかし、それはあくまでもリンクの強さに関しての話であり、リンクするだけに関しては、低レベルとはいえプログレスとαドライバーであるなら誰とでもできるものであるはずなのだ。

でも、天羽さんは『誰ともできない』ということらしい。

その時点で、相当のイレギュラーケースであることは間違いなかった。

「まあ、イレギュラーってことに関しては僕も大して変わらないけどね…。」

大河さんが苦笑する。

大河さんも、この学園におけるイレギュラーケース。

元々絆を深めなくては手が届かないはずのプログレスのポテンシャルを、最初から一定以上、それこそ最低でもリンクレベル4クラスまで一気に引き上げるという、そんな力。

それがあったおかげで、美海さんとお付き合いする前、大河さんは当時の第2風紀委員時代から、あちこちから引っ張り凧になる常連だった。場合によっては、その力だけを求めるプログレスもいたが、大河さんはそういったプログレスたちにも変わらずいつも通りの優しさを向け、信頼を得た。プログレスの中には、大河さんとリンクすると、リンクレベル5ー覚醒状態と呼ばれる、100パーセントの力を発揮できるまでになるという人も多い。私もその一人。そして極めつけが、特に美海さんとのリンクは、覚醒状態のその先にある、レベル5オーバーというリンクの境地ー「可能性解放状態」と呼ばれる、今のところお二人の他には例のない領域にまで達する。

その力と、その性格によって、大河さんはいつしか「最高のαドライバー」と呼ばれるようになった。美海さんとお付き合いを始め、風紀委員長になった後も、それは変わることなく続くものだ。

大河さんが、天羽さんに向かって言う。

「…天羽君、何でもいい。何か心当たりがあることとかはないかな?例えば、人と関わることが昔から苦手とか、何かのきっかけで誰かに対して怖い思いを持ったとか。…あぁ、ごめん、辛いことを思い出させちゃう ならいいんだけど。」

「い、いえ、大丈夫です!!…すみません、僕も何がそうしているのか、まったくわからないんです…仲のいい友達もいますし、家でもストレスを持ったことはないですし…。」

そう言って、天羽さんは顔を下に向ける。

「うーん、そうか…正直、性格も優しいと思うし、朝に見た感じだと気遣いもできるみたいだし…それを考えてもリンクできない理由がないんだよなぁ…」

大河さんが頭を抱える。と、ちらっと隣を見て言った。

「美海、ピーマン避け終わった?じゃあ、はい。」

そう言って、お弁当箱の蓋を美海さんに差し出す大河さん。

「えへへ、いつもありがとー♪」

そんな風に言いながら、美海さんがお弁当箱の蓋の上にピーマンを乗せていく。

「もう、だったら最初から抜いてもらうように頼んだらいいのに…。」

「うー…だってだって、おうちでお母さんに作ってもらってるわけでもないんだよ?だからその…ちょっと恥ずかしくて…。それに、生徒会長さんが嫌いな食べ物があるって、みんなにバレたくないんだもん…あ!!翔君、みんなには黙っててね!!生徒会長命令だからね!!絶対だからね!!」

「あ…え、ええと…はい…約束します…。」

美海さんに言われて返事をする天羽さん。美海さんはそれを聞いてほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、

「あ!大河君、卵焼き、いつもより一個多い!!」

「気がついた?前においしいって言ってたって千尋に話したら、じゃあ今日から一個多めにしておくね、って。」

「ほんと!?やったぁ♪じゃあさっそく…。」

「はい、あーん。」

「あーん…はむっ…んん~、やっぱりおいしい♪」

「…え、ええと…。」

突如として現れた甘い空気に、天羽さんが気圧されている。

「はぁ…あんたたち、一体何の話をしにここに来ているのよ…。」

いつの間にか来ていたらしいソフィーナさんが、甘い空気を全面にまとったお二人に言った。

「あ、ソフィーナちゃん!!…ええと、ごめんね、ほんとなら私が行かなくちゃいけなかったのに…。」

「気にしてないわよ。大切な用事なんでしょ?でも、だったらここで大河とイチャイチャしている暇はないんじゃないかしら?」

「あ、あはは…はい、気をつけます…。」

ソフィーナさんの正論に、ぐうの音も出ないらしい美海さん。ソフィーナさんはそのまま天羽さんに向かって言った。

「新入生のあなた…翔って言ったわね。とりあえず、この二人と何かするなら、この毎回毎回口から砂糖が出そうになるくらい甘ったるい雰囲気には早いところ慣れた方がいいわよ。…それから、何かあったらあたしも相談に乗ってあげるから、遠慮しないで相談してきなさい。」

そう言って、ソフィーナさんはお昼の喧騒の中に消えていく。

…ソフィーナさんも、優しいですね。

きっと、先ほど美海さんとお話をしていたことは半分建前で、天羽さんのことを気にかけてくださっているのだろう。

「…ええと…天羽君、なんかごめんね…。」

大河さんが、天羽さんに頭を掻きながら言う。

「い、いえ、そんなことは…その…ちょっと羨ましいな、とは思いましたけど…。あ…ええと…羨ましいって、変ないみじゃないんですが…その…風渡先輩と日向先輩…それだけ理解しあっている、ってことじゃないですか。…僕、誰ともリンクできないので…だから、そんなに理解し合えて、言いたいことを言い合えて、 周りに囚われずに自分達の世界に入ることができて…僕も、誰かとリンクできたとしたら、その誰かとこんな風になれたのかな…。」

天羽さんが、そこまで言って口をつぐんでしまう。

…どうしよう。

何か言わなきゃ。

でも、何を?

どうすれば天羽さんは喜んでくれるんだろう。

…と、とりあえず…何か言わなくちゃ…!

「…あ、あの…天羽さん…きゃあ!」

勢いよく立ち上がった拍子にひっくり返った椅子の脚に自分の足をひっかけて転んだ私は、思いきり床におでこを打ちつけてしまう。

「あぅー…いたた…きゃう!」

立ち上がろうとしたところに、今度は真上にあったテーブルの天板に後頭部をぶつける私。

…またやってしまった。

このドジぶりは、生まれたときから直る兆しすらない。最初に勢いよくぶつかったおでこを押さえながらそんなことを思っていると、

「…だ、大丈夫ですか!?」

隣の天羽さんが、大きな声を上げた。

「ええと…ちょっと待っててください!厨房で氷とかもらってくるので!」

言うが早いか、天羽さんは本当にすぐに厨房が目の前にある配膳用のカウンターに走っていく。ほどなくして戻ってきた天羽さんの手には、小さなビニール袋に氷水を入れ、輪ゴムで閉じてあるという即席の氷嚢が握られていた。

「…すみません、こんなものしか用意できなくて…こぶになってたりしないかな…あ、このままだと冷たいですよね…?ええと、確かハンカチが…。」

「い、いえ!その…ありがとうございます…ごめんなさい、いろいろしてもらっちゃって…。」

私はとりあえず、いただいてきてくださった氷嚢を受け取ろうとしてーーー一瞬、手と手が触れる。

私はいつもと同じようにとっさに手を引っ込めようとしてーーーそして気づいた。


温かい力がーーー流れ込んでくる。


ただ、手と手が一瞬触れ合っただけ。

それなのにーーー

この感覚を、私は知っている。

これはーーーこの感覚はーーー

「ーーーレミエルちゃん!見て!こっち見て!」

美海さんが学食であることを忘れているように叫びながら、制服のポケットから手鏡を出して私に向けてくる。言われるがまま、私はそちらを向く。


そこに映し出された、私の顔。

ーーーいつもは青いはずの私の左目。それが、瞳の中心に神様の印である十字が描かれた、眩い金色に輝いていた。


「…え、え…?あの…みなさん、一体何が起こったんですか…?僕、何もわからなくて…。」

天羽さんが困った声を出すのも無理はない。

それだけ、私たちにも一瞬、何が起こったのかはわからなかった。

「…天羽君、おめでとう!」

「おめでとう!」

「おめでとうございます!」

「…え、え?ええと…どうして僕、祝福されているんですか?一体何が起こったんですか…?」

大河さん、美海さん、フェルノさんの順に言葉をかけられて、まだわけもわからずにいるらしい天羽さん。

でも、私たちは祝福しなくてはならない。恥ずかしいなんて言っていられない。


ーーーこれが、きっと天羽さんの、はじめてのリンクの成功なのだろうから。


とりあえず詳しいことは放課後、ということで、私たちは放課後、今度はバトルルームへと集まっていた。

「…あの…大河さん、風紀委員のお仕事…本当に大丈夫なんですか…?」

私は少し気になったので聞いてみる。

今日の放課後は生徒会のお仕事がないらしい美海さんはともかく、風紀委員長である大河さんは、いつも放課後は風紀委員のお仕事で忙しいはず。時間があるときにたまにお手伝いをしているが、膨大な書類に囲まれて机に突っ伏していることもしばしばなほどだ。

「あぁ、大丈夫。アクエリア曰く、『いつも忙しくしてるんだし、リフレッシュする時も必要だから、こっちが一段落するまではこっちを優先して』って。…まあ、そのあと『元はといえば仕事が増えるのは遥とテオが逃げ出して、そのあと探しに行ったクラリスもいつの間にか失踪して仕事が貯まらなくていい時に貯まるのが悪い、今日は絶対に逃がさない、というよりも部屋から物理的に出さないし仕事が終わるまで絶対出られないようにいろいろ細工する』とか何とか怖いこと言ってたけどね…。とりあえず、部屋を木っ端微塵にだけはしないでね、って言ってきた。」

そう言って遠い目をする大河さん。

…アクエリアさんなら、確かにやりそうだ。

そうこうしている間に、大河さんは言う。

「…さて、天羽君、改めて、はじめてのリンク、本当におめでとう。まさか、こんなに早くとは僕も思わなかった。」

…本当に、よかった。

お昼、私は天羽さんに説明した。

αドライバーとのリンクを繋いだ私の瞳の色が金色に変わること。

あのとき、私は他の誰ともリンクを繋いではおらず、また繋ごうとすらしていなかったこと。

それを聞いた天羽さんは、それが嘘でないとわかるや否やまた涙をぽろぽろと流して泣き出してしまい、落ち着いてもらうまで、ものすごい時間がかかってしまった。

でも、天羽さんからすれば、本当に本当に嬉しかったのだろう。

今まで、誰ともリンクできないと思っていた、そんな時に、偶然とはいえリンクを繋ぐことができたのだから。

「…でも、やはり天羽さんがイレギュラーであることは、変わらないようですわね。」

フェルノさんが言う。

実は、私たちは先ほど、その場にいたプログレス…美海さんやフェルノさんと天羽さんがリンクできるかを試してみた。しかし、その結果はリンクできず。

「うーん…もしかすると、天羽君は僕とまったく逆のイレギュラーなのかもしれないね。」

「…逆…ですか?」

フェルノさんが首をかしげる。

「そう。僕はなぜか、みんなのエクシードを誰のものでもほぼフルパワーで出せちゃう、とかいう、これまた意味のわからないものではあるわけなんだけど…。まあそれはとりあえず置いておこう。それで、ここで考えられることなんだけどーーー天羽君はもしかすると、誰ともリンクができないんじゃなくて、特定の誰かとしかーーーそれこそ、レミエルとしかリンクできない、ってことなんじゃないかな?」

「ーーー私としかーーーリンクができない…ですか?」

だとしたら、確かに辻褄は合う。

入学してから数ヵ月が経っているはずの天羽さんは、それこそいろいろな新入生のプログレスとリンクを試みてきたはず。それなのに一人たりともリンクが繋げず、しかし先ほど偶然とはいえ私とリンクが繋がったという、本来ならどう考えてもあり得ない状態が彼の特殊性を物語っている以上、他に理由はどうしても見当たらなかった。

「さて…そこまでわかったはいいけど…ここからどうしたものかと思ってたんだけど…。」

大河さんは、天羽さんと私に向き直って言った。


「天羽君、レミエル、二人の考え次第なんだけど…

ーーーお互い、専属のプログレスとアルドラになってみないかな?」


「ーーーーーー。」


一瞬、時が止まる。

専属のアルドラさんとプログレス。

誰が。

私と天羽さんが。


「…え、ええと、その…それって、つまり…。」

天羽さんが、しどろもどろになりながら大河さんに詰め寄る。

「あ、あの…あのあのあのあの…大河さん…!?」

私も自分で何を言っているのかわからないくらいに驚いていた。

…確かに、私は天羽さんの力になりたいと思う気持ちを持っている…と思う。

それで助けになるならーーーそう思うことだってある。

しかしーーーーーー正直、私は大河さん以外とリンクしてブルーミングバトルを行ったことはない。

端的に言うなら、自信がなかった。

「…あぁ、ごめんね。いきなりこんなことを言っちゃったら、二人とも混乱するよね…。でもーーー」

大河さんは、私たちをまっすぐな視線で見据えて言った。


「天羽君とレミエル…ちょっと二人には辛い言い方になるかもしれないけど…二人とも…心に何らかの傷を負ったことのある二人が、ここでこうして出逢って、リンクを繋げることがわかった、それには、きっと何か意味があると思うんだ。

リンクが繋げることがわかった時だって、二人が一緒にいたからそれがわかったでしょ?

わかり合うって、そもそも一人ではできないでしょ?

出会えたことって、運命ってものだと思うんだ。

もしかしたら、天羽君は誰よりも、レミエルのエクシードの力ーーー大天使ミカエルの力の本質を強く強く引き出せて、なおかつそれを制御することのできる可能性を秘めているのかもしれないーーーそれこそ、僕なんかよりもずっと。」


大河さんは一度言葉を切り、もう一度話し始める。

「…ああ、もちろん、二人がそれはちょっと、っていうことなら、さすがに無理強いはできないけどね…。二人にも都合はあるだろうし、そもそも学年も違うし…。」


「ーーー風渡先輩。」

天羽さんが、大河さんに向き直る。

「ーーー僕はーーー僕はーーープログレスの…レミエル先輩の力になれるんでしょうか。」

大河さんはその問いに、にこっ、と、いつも見せてくださる笑顔を向けて言った。


「ーーー君がそう望めば、きっとなれる。

自分の中の可能性ーーーそれを信じて。」


ーーーこの言葉ーーー私も、心が決まった。


「天羽さんーーーその…私でよろしかったら…なんですけど…

そのーーーぜひ、私の専属のアルドラさんになってください!!」


私は、これ以上迷わずにーーー心からそう言うことができた。

天羽さんが、私としかリンクできないから可哀想と思ったわけじゃない。仕方なくでもない。

私のーーーレミエルの力になれるのか、そう天羽さんは言った。

天羽さんは、自分の持つ可能性をしっかりと見据えて、自分の殻を一生懸命に破ろうとしている。

私はあの時、そんな天羽さんの助けになりたいと思った。

この選択は、天羽さんの力になりたいだけじゃない。

これはーーー今まで大河さんの力にばかり依存してきた私から、もう一歩進むための選択。

天羽さんは、あの時見せてくださった笑顔を浮かべてーーー私に向かって、こう言った。


「ーーー改めて、よろしくお願いします、レミエル先輩ーーー」


私は、自分から握手を求めるべく手を伸ばす。

天羽さんも、手を伸ばしてーーー今度はお互いに、やわらかく、しかししっかりと両手でお互いの手を握り合う。

気恥ずかしさなんて、もうどこにもなかった。


「風渡先輩、日向先輩、ガーディーヴァ先輩ーーー」

握手の後、天羽さんが3人に向き直る。

「…その…僕、まだまだアルドラとしては未熟ですけど…でも、頑張って、いつかレミエル先輩の力になれるアルドラになりたい…そのために、もう少しだけ、お力を貸していただけませんか…?アルドラとしてのこと、たくさん、いろんなことを勉強したいんです!お願いします!!」

頭を下げる天羽さんに、

「ーーーもちろんだよ。ね、二人とも。」

大河さんの問いかけに、美海さんとフェルノさんが、しっかりと、笑顔で首を縦に振る。

「…ありがとうございます…!僕、頑張ります…!…それから…。」

天羽さんは、少しだけ考えてから言う。

「その…風紀委員のお仕事や生徒会のお仕事…もしもよろしかったらでいいんですけど…僕にもお手伝いさせていただけませんか?雑用とか、掃除とか、何でもいいんです!…僕、みなさんに少しでも何かをお返ししたくて…でも、このくらいしか思いつかなくて…。」

「ええと、こちらとしてはすごく助かるけど…いいのかい?」

聞き返す大河さんと、その大河さんが今しているのと同じような表情をする美海さんに、フェルノさんが言う。

「大河さん、美海さん、ここでの聞き返しはいけませんわ。彼は今、ご自分の意志でそう言っていらっしゃるのです。その言葉を汲んで差し上げるのが、わたくしたち先輩ではなくて?もちろん、わたくしも時間があるときはお手伝いに伺いますし、天羽さんのお力にもなれるように努力いたしますわ。」

「…それもそうか。ごめん、フェルノの言う通りだ。じゃあ、天羽君、お願いしても、いいかな?」

「私も。翔君、よろしくね。」

天羽さんは、今度は大河さんと美海さんと握手を交わす。

…私も、頑張らなくては。

人知れず、私は心のなかでそう呟いた。


解説編第一回

・「リンクとエクシードの関係、覚醒と可能性解放」

物語の中でのプログレスさんとαドライバーさんのリンク及びエクシードが、絆を深めることによって繋がりや力を増すというのは原作準拠なのですが、私の作品では、それをさらにパーセンテージを用いて細分化して、カードゲームさんにおけるレベルの概念を参考にして、0~5までのリンクレベルという概念を作っていますです。とりあえず0から始まる数直線のような形で表して見ると、

レベル0→0(リンクできない、あるいはリンクを繋いでいない状態)

レベル1→1~20

レベル2→21~40

レベル3→41~60

レベル4→61~80

レベル5→81~

…という形でどんどん上がっていくことにしているのですが、ここではレベル5に到達したことを主に「覚醒状態」と呼ぶことにしていますです。

第2章の作中で美海ちゃんと大河君が到達しているという描写があった「可能性解放状態」とは、レベル5の中でも数値が100パーセントを超えている状態を指すことにしているのですが、こちらに関しては、アプリさんにおける「可能性解放(すなわちURのLR化)」や、カードゲームさんにおける「エクシードデッキ」、「エクシードカード」の中にある「レベル6のエクシードの存在」、及びカードゲームさんの用語である、エクシードカードを使う際の用語である『解放』と呼ばれる単語の存在といった概念を参考にして、設定を作らせていただいていますです。


・レミエルちゃんの力の根源「大天使ミカエル」の力

カードゲームさんやアプリさんの中には、「転生せし大天使 レミエル」というカードが存在し、カードゲームさんにおけるカードのフレーバーテキストに書かれた内容を用いた設定になりますです。作者である私があまりカードゲームさんの方に詳しくないことから、詳しい設定は雰囲気でしかわかっていないので、それがみなさんには申し訳ないところなのです…お勉強不足でごめんなさいですが、ご了承いただければ幸いなのです。



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