前書き
Kokoroです。
一週間ほど前に第2章を載せさせていただいたばかりなのですが、前回とはうって変わって、今回はものすごく早い更新になりますです。多分なのですが、書きたいこと自体はもう全編まとまっているので、書こうと思えばかなり早い更新になると思うのですが、予定その他の関係で書けないこともたくさんあるので、もしもお時間がかかっても気長に待っていただけたら幸いなのです。
…さて、今回と4章は、物語の序盤の山場になるところなのです。お話が長くなることや、情報量も多くなるかもしれないので、読み手としては大変かもしれないのですが、 みなさん、ぜひついてきていただければと思うのです。ここで説明しているのもお時間が勿体ないので、続きはぜひ本編にてお楽しみくださいです~♪
第3章「伝えたいこと、理解したいこと」
「…さて、二人とも、そろそろ今日は終わりにしようか。」
大河さんの言葉と同時に、天羽さんがαフィールドを解除する。それを見て、大河さんが天羽さんに声をかけた。
「天羽君、αフィールドの扱い、だいぶ慣れてきたみたいだね。」
「い、いえ、まだまだです…でも、ありがとうございます。」
…心なしか、天羽さんの声が弾んでいるように思える。
あれから一週間が過ぎていた。
天羽さんが、私とであればリンクを繋ぐことができるとわかった時。
大河さんからの提案で、天羽さんが私の専属のαドライバーさんになった時。
あれから毎日、私と天羽さんは、時間を見つけてはリンクを繋ぐ練習を繰り返していた。
「40パーセント…うん、リンクの数値も安定してきてるみたいだ。」
大河さんが、手に持った二つ折りのものーーーパーソナルコンピュータ…あるいはパソコン、と呼ぶもので、青の世界だけでなく、白の世界でも似たような機械があるらしいーーーを操作しながら言う。
「…まだ、レベル2ですか…。」
天羽さんが、先ほどの嬉しそうな声をすぼませて言う。 それを聞いて、大河さんが天羽さんに言った。
「いやいや、そんなに気にしないで。そもそも、僕みたいなイレギュラーを基準に考えちゃいけないよ。僕の方が普通に考えたらおかしいんだから。普通なら、最初からレベル2だっていうことはすごいことだし、それを差し引いても、天羽君はよく頑張っていると思う。自信をもって。」
…実は、なぜか最初からレベル2の数字であった私たちは、まだ40パーセントの壁を突破できていない。
何度かリンクした状態でエクシードを使ってみたことはあったが、やはり形作られる光の翼は、100パーセント近い力を発揮することができた大河さんとのリンクの時と違い、はるかに重いものだった。
「…さて、とりあえず、今日は二人とも、このあとは風紀委員の手伝いをしてくれる、ってことでいいのかな?」
パソコンを鞄にしまった大河さんが、私たちに聞いてくる。
「はい。」
「わ、私もです。」
二人で大河さんに向かって言う私たち。
「本当にありがとう、助かるよ。…まさか遥もテオも補習をくらって何日か風紀委員室に来ないなんてね…。二人がいなかったら本当にどうなってたことか…。アクエリアも事情が事情ってことで強く言えなかったみたいだったし…。」
大河さんが、まさに地獄に仏を見たような顔をして言う。
「あの、先輩、僕のことは気にしないでください!特訓を手伝っていただいているわけですし、自分でお手伝いをしたいって言ったわけですし、せめてそのくらいは…あ…ええと、レミエル先輩にも手伝っていただいてしまってるのに、僕、何も返せていないですよね…。すみません…。」
「あ…あの、こちらこそお気になさらず…!」
私は慌てて、両手と首をぶんぶん振りながら天羽さんに言う。
この一週間で、私は天羽さんの人となりを、なんとなく理解し始めていた。
彼は、いつも一生懸命なのだ。
聞けば、お勉強の成績もいいらしい。
風紀委員や生徒会のお仕事のお手伝いも毎日欠かさず行って、どんなに大変なお仕事でも率先して、自分にできることはないか探すらしい。
何より、私との練習の時。
彼とのリンクは、大河さんとのリンクの感覚に、少し似ている気がするのだ。
私のーーープログレスのことを一生懸命に考えてくれる、そんな、熱い意思と温かな気持ちが流れ込んでくるーーーそんなリンク。
感謝するときも。
失敗してしまって、ごめんなさいを言うときも。
しっかりとお相手の気持ちになって、一生懸命に行動しているーーー一生懸命に生きている。
私は、そう感じた。
「風渡先輩、今日のお仕事は何ですか?」
さっそく、天羽さんが大河さんと今日のお仕事の予定について話す中、私は考えていた。
(ーーーリンクの感覚はこんなに似ているのにーーーどうしてレベルが低いんだろうーーー?)
それから数十分後。
私と天羽さんは、学園の中を見回っていた。
大河さんは、大河さんにしかわからない書類がたくさんあって手が離せず、一緒にいたクラリスさんやアクエリアさんも別のお仕事がたくさんあるということで、私たちにその役目が回ってきた、ということなのだがーーー
「………。」
「………。」
…うぅ…すごく気まずい。
あれから何度か、こうやって二人で見回りをしたことはあったけれど。
…でも、やっぱりちょっと恥ずかしい。
「…あっ。」
図書館の戸締まりを確認していた私は、気がつくとあの場所に立っていた。
「先輩、こっちの戸締まりの確認、終わりました。…どうしたんですか?」
私を呼びに来たらしい天羽さんが、本棚に向かって手を伸ばす私を見て言う。
「ーーーあ…ご、ごめんなさい…ええと…思えば、もうあれから1年も経つんだなぁ、
って思って。」
私は、一冊の本を手に取った。
かつてこの場で手に取ってしまったと後悔しかできなかった本。
かのページが何ページだったかまで、詳細に思い出すことができる。
私は、かつて絶望しか感じなかった、あのページを開いた。
「先輩ーーーまさか、その本ーーー」
天羽さんが驚くのも、無理はなかろう。
私は、かつて見て泣くことしかできなかったページを、自分の意思で開いたのだから。
そのページの挿し絵は、当然、あの時と同じーーー神様に見捨てられた天使が、白くてきれいな翼を捨てる場面。
「あの時、大河さんや美海さんと出会っていなかったらーーー私はどうなっていたんでしょうね…エルエルちゃんが助けに来てくれなかったら、私はどうなっていたんでしょうね。」
自分の口から出た言葉は、そんな言葉だった。
ここに来たのは、正直、偶然の産物。
大河さんから頼まれなければ、図書館に来ることはなかった。
あれから、必要最低限しか図書館には来ていない。
…思えば、私はずっとここに来るのを避けていたのかもしれない。
ここには、そんな嫌な思い出があるから。
結果として、大河さんと美海さんに出会うことができたからよかったけれど。
それでも、私にとって、この本の存在するこの場所は、内面的な恐怖の産物でしかなかったはずだった。
…なら、どうして私はこの本をもう一度手に取ったのだろう。
自分でも、その理由がわからない。
そういえば、最初にこの本を手に取らなかったら、私はどうなっていたんだろう。
大河さんと美海さんに出会うことすらなかったのではないだろうか。
だとしたら、私は今、ここにいたのだろうか。
赤の世界に戻るかーーーあるいはどこかで
人知れず忘れられるままだったのではないだろうか。
「ーーーあの、レミエル先輩ーーー」
…あぁ、そうだ。天羽さんがいたのだった。
私は本を閉じようとしてーーー
「その…僕にも見せていただけませんか、その本ーーー」
ーーーえ?
一瞬、天羽さんが何を仰っているのかわからなかった。
「その…天羽さんーーー」
「あ…ご、ごめんなさい…!!先輩にとっては嫌な思い出かもしれないです…でも…知りたい、って思ったんです…その時、レミエル先輩が見たもの、感じたこと…。その…専属アルドラだからとか、そういうことでなのか、それともただの好奇心なのか…それは自分でもわからないんですけど…。すみません、やっぱり、ご迷惑ですよね…。」
「あ…あの…大丈夫です…!!」
私はすぐに天羽さんに向き直って言う。
…やっぱり、この人は一生懸命だ。
出会ってまだ日の浅い私を、一生懸命に知ろうとして、
それと同時に気遣ってくださっている。
私は天羽さんに言った。
「…あの…見回るの、ここが最後ですから、一緒に見てみませんか?この本…。」
「え…?あの…先輩、大丈夫なんですか?僕のわがままなのに…。」
「あ…ええと、私のことは気にしないでください。…確かに、辛くないと言えば嘘になるかもしれないけれど…。でも、ちょっと嬉しかったですから。その…天羽さんが、私のことを理解しようとしたくださること。」
そう言って、私は傍らにあった机に座る。天羽さんはちょっとだけ迷ったような仕草をして、しかしすぐに、私の隣の椅子に腰かけた。
「………。」
「………。」
また沈黙。
…勢いで一緒に見てみませんか、と誘ったはいいものの、やっぱり気まずい。
ちらっ、と隣を見ると、天羽さんのお顔も、緊張に強張ったみたいに真っ赤だった。
…天羽さんも赤くなっているなら、先ほどから顔がやけどしてしまいそうなくらい熱くなっている私は言わずもがなだろう。
「…あ、あの…!そ、そのページ、何ページですか…?」
耐えきれなくなったのか、天羽さんが少し裏返ったような声で言う。
「あ…ご、ごめんなさい…ええと、このページです。」
慌ててものすごい勢いでページをめくる私。…うぅ、一緒に見てみないかと誘ったのは私なのに…
そんなことをしていると、かのページが姿を現した。
「………。」
ページが開かれるや否や、天羽さんはそのページにしっかりと目を凝らし始める。まるで、その一単語まで見落としたくないというように。
一通り読み終わったのか、天羽さんは私に向き直る。
「…先輩、無茶を言ってしまって、本当にすみませんでした…嫌な思い出があるはずなのに、あんなことを言わせてしまって…」
「ええと、そんなことはないです。それで…何かあったんですか?ずいぶん一生懸命に読んでいたな、と思って…あ、嫌な意味じゃないんですが…。」
「…あ、す、すみません、僕ばかり…。」
天羽さんはそう言ったと思うと、少しだけ考える素振りをしてから、こう言った。
「…あの…こんなこと、先輩の目の前で言うのは…もしかしたら、先輩を傷つけてしまうことになってしまうかもしれないんですが…
どうして、この天使は神様の元を離れたんだろうな、って思ってしまって…。」
一瞬、彼が何を言っているのか、私にはわからなかった。
神様の元を離れた理由?
決まっている。神様の怒りに触れて、神様のお側から追い出されたからだ。
「ええと…天羽さん…それはですね…。」
「…あ、ごめんなさい、そのことはわかっているんです。神様に嫌われてしまって、見捨てられて、それでなんだってことは…。でもーーー」
天羽さんは、また言葉を選ぶように一瞬考えて、そして私に言った。
「ーーーそれって、真実なんでしょうか。」
真実?
どういうことなのだろう。
だって、この本にはそう書いてある。
なのに、どうして。
どうして、目の前の彼は、こんなことを言うのだろう。
私にはわからなかった。
彼の言葉は続く。
「…レミエル先輩の過ごした赤の世界ではわからないんですが…僕がずっと過ごしてきた青の世界では、神話や伝承というものは、あくまでも人が作ってきたものに過ぎないんです。確かに、実在した聖人や預言者、教祖といった人たちは、たくさん歴史の中にはいて、その中に、数々の奇跡を起こしたりしたという話もあります。…でも、それだって長い歴史の中で、それを神聖化したい人たちによってでっち上げられただけなのかもしれない。例えば、死んでしまいそうな人を元気にしたなら、その人は誰よりも医学に詳しかっただけなのかもしれない。何もないところからおいしい食べ物や飲み物を作り出したというなら、それはその食べ物を一番最初に作った人というだけなのかもしれない。…だから、僕にはこの話が本当に真実のように描かれているのが、どうしても納得がいかないんです…。」
ーーー。
考えてみれば、確かにそうだ。
火のないところに煙は立たない、という諺が、この青の世界にはあるらしい。
だから、このお話だってすべてが嘘という訳ではないのかもしれない。
…でも、それだけ。
それが正しいものという風に声高に言っている人や物があるとして、それがすべて正しいことだと誰がわかる?
もしかしたら、少数の本当にそれを理解している人たちは、それを否定したのだろう。彼らが起こしたという奇跡の数々は、こういったからくりがあって証明できるものなのだと。
…だが、広まった噂を受け止めるには、その器はあまりにも小さい。いろいろな独自解釈によって、あることないこと尾ひれがつき、まことしやかに語られるようになったその噂によって、いつしか受け止める容積をなくした器は、やがて受け止めきれなかった水によって包まれ、その水の奔流から抜け出るための隙間もなくし、やがて水と同化し、形をなくし、土へと還っていった、そう考えることだってできるはずだ。
授業で教わった、この世界における歴史。
その中にも、それを類推できるような出来事は、いくつもあった。
疫病の流行。
宗教や民族同士の対立。
それらによってたくさんの人が亡くなり、あるいはそれがなくとも、何も悪いことをしていない人が、次の日には隣人によって悪人にされ、亡くなったことだってあるという。
そして、そういうときにはいつも、多くの人々や当時の為政者は、その小さな人や民族、宗教を救おうなどとは考えない。
ただ、邪魔物として切り捨てるだけだ。
かつて、片翼である私に対して、周りが奇異の目を向けたようにーーー
「…あ…ごめんなさい…レミエル先輩…本当に…本当にごめんなさい…!!」
「…えっ…?」
突然大きな声を出した天羽さんの声に、少しびっくりする私。
「…先輩、泣いてますから…僕、やっぱり先輩にとって嫌なことを言ってしまったんですよね…?」
言われて、私は自分の目に手をやった。
ーーー天羽さんのいう通り、目尻から、つうっ、と一筋の涙がこぼれ落ちている。
どうして。
どうして、ここで涙が出てくるのーーー?
天羽さんはそこまで言って、眉間にしわを寄せながら、どんっ、と机を乱暴に殴りつけた。
「あ…天羽さん…!!」
びっくりして、それでもなんとか制止しようとする私に構わずに、天羽さんは涙を拭おうともせず、ご自身に向かって心ない言葉をぶつけ続ける。
「僕の…僕の馬鹿野郎…!!こんなだから…こんなだから…先輩とのリンクだって…そうだ…きっとそうだ…僕が馬鹿だから…。」
…どう言葉をかけていいのか、まったくわからない。
ひとつ言えるのは、彼はすべての責任を、自分にあると思い込んでいるのだろう。
さっきの言葉ーーーこの本の言葉が真実なのかどうか。それは、私にはわからない。
でも、それを疑問として考えてしまったことで、私を傷つけてしまったと思っている。
…きっと、不安なのだ。
私とリンクができることがわかった後、誰よりも頑張っていたのは彼だ。
私は知っている。
彼の努力を。
αドライバーとして、私のーーープログレスの力になりたいという、強い気持ちを。
足踏みするのは、仕方がないのかもしれない。
でも、やっと足踏みをやめることができて、前に進めると思ったら、また足踏みをしなくてはならないなんて。
それが現実である以上、受け入れなければ進めない。
ーーーでも、それでも、やっぱり、そんな現実は嫌だと思ってしまう。
…どこまでも、この人は私に似ている。
…もちろん、私は彼ほど優しい自信はない。
頑張り屋という自信もない。
物知りでもない。
だけどーーー
「あのーーー天羽さんーーーどうしてそう思ったのかーーー私に教えてくれませんか?」
「…えっ…?」
驚く天羽さんに、私は伝える。伝えなければと思った。
「天羽さん…私を気遣ってくださって、ありがとうございます。…うまくはいえないんですが…私も知りたいんです。天羽さんが、どうしてそう思ったのか。天羽さんには、この挿し絵がどう見えているのか。どう感じたのか…いきなり泣き出しちゃったのに、勝手かもしれないんですがーーー」
「…そんなこと、ありません…。」
天羽さんの目にも、大粒の涙が流れ出していた。
「お話ししますーーー僕がそう思ったのはーーー」
天羽さんが口を開いたときーーー
「あれー?あれ天羽じゃねぇ?」
私たちから見て正面、私が最後まで開けておいてしまった窓の向こう。ちょうど私たちが見える距離から聞こえた声。
その声に、出そうと思った声が、喉から出ることなく止められた。
「ーーー!!」
天羽さんが、いきなり立ち上がって駆け出す。
「天羽さんーーー!?」
声を上げる私に振り向きもしないで、彼は一直線に図書館のドアへと走っていく。そのまま、ドアを蹴飛ばすようにして図書館を出た天羽さんを、
「ーーーおい、逃げんのかよ?おいお前、あいつを足止めしとけ。せっかくの遊び道具なんだからな、逃がすなよ。」
「ーーー了解シマシタ、マスター。」
「ふん、なら俺も先にあいつのとこ足止めしとくぜ。行くぞ。」
「…了解。」
「じゃあ僕も。彼は騒いだりはしないけど、それでもいたぶるのはおもしろいから。」
「はーいさんせーい、やっちゃおやっちゃお!!楽しければオールオーケーだしー!!」
ーーーまさか!!
窓の外から聞こえた声。複数の声が聞こえてきていた。
3人の男の人の声と、これもまた3人の女の子の声。いずれの声も聞いたことはないから、おそらく天羽さんと同じ新入生だろう。
ここは青蘭学園。プログレスとαドライバーの学び舎。
ということは、彼らはここの学生、プログレスとαドライバーということで間違いないだろう。
彼らは、天羽さんを探している。
遊び道具などと言っているところを見ると、おそらくろくでもない考えを持って彼を探しているのだろう。彼はαドライバーとしての力がなかったばかりに、クラスや学年でも浮いていて、人によっては心ない言葉をぶつけられることもあったというのだから。もしかしたら、私たちの知らないところで、痛い思いをしていることだって否定できない。そして、αドライバー同士の喧嘩ならともかく、学内で無闇な使用は禁止されているとはいえ、彼らにはプログレスと、そのプログレスのエクシードがある。
ーーー天羽さんが危ない。
考える間もなく、私は図書館を飛び出していた。
ーーー間に合ってーーー間に合って!!
私は息を切らせながら、彼らが走っていった方向へと向けて走る。それほど走ることもなく、私は彼らに追いついていた。
「ーーー天羽さん…!!」
私は叫ぶ。
天羽さんがびっくりした顔でこちらを見るのと同時に、他の男の子たちと女の子たちもこちらに目を向ける。
「ーーーあぁ、あの噂って本当だったんだ。天羽がエースの一角の専属アルドラになったとかいうやつ。」
「そこにいるのってレミエル先輩でしょー?ならそうなんじゃなーい?」
眼鏡をかけた男の子と、陽気そうな女の子が言う。古風な服装からすると、女の子の方は黒の世界出身だろうか。
「…あぁ、レミエルってあれか、よく風紀委員や生徒会の連中といるっていう。」
「…肯定。」
背が高くて冷静な声の男の子と、おそらく緑の世界出身なのだろう。グリューネシルト統合軍の制服を着ている、これまた無愛想な声の女の子が続ける。
「…みなさん、天羽さんに何をするつもりなんですか…!?」
私はようやく声を絞り出す。
それを聞いて、リーダー格らしい我体のいい男の子が振り向いて言った。
「いやぁ、レミエル先輩にこんなところで会えるなんて。俺らツイてますわ。…まあ、ここに一人邪魔なのがいますけどねーーー!!」
言うが早いか、リーダー格の男の子は天羽さんに向き直ったと思うと、天羽さんの頬に向かって拳を乱暴に叩きつけた。
「…ぐ、ふっ…!!」
他の男の子二人に行き場を封じられていた天羽さんは、それをまともに受ける以外にない。拳を受けて吹き飛ばされた天羽さんは、そのまま固い土の地面へと倒れこんだ。
「天羽さん…!!」
私は彼に駆け寄ろうとしたが、
「ーーー妨害。」
「ま、そゆことだから。ごめんねー先輩。あ、一応言っとくと、あたしたちリンク完了してるから、下手に抵抗しようとしたらどうなるかわかんないよー。」
回り込んでいた女の子二人が、私の前に壁として立ちはだかる。リンクをしているということは、学園の規則を守るつもりはさらさらないのだろう。
「ーーーそこをどいて!!どうして…どうしてこんなにひどいことを…!?」
「いやー、どいてって言われてもさー、あたしたち言うこと聞く側だし?」
「ーーー同意。」
…言うことを…聞く側…?
「そんな…自分たちのαドライバーさんがひどいことをしようとしているのに…黙って見ているって言うの…!?」
私の言葉に、陽気な女の子が心底疑問という顔をして言う。
「はぁ?逆になんでそんなこと聞くの?だってあたしたちプログレスって、アルドラがいなきゃなんもできないじゃない?アルドラがいるからお荷物にならないでいられるんじゃない?それともー、先輩は違うのー?…あ、そっか、エースの一角だもんねー。リンクなんかしなくたって、あたしたちくらい一捻りかー。あははっ♪」
…違う、と言いたかった。
αドライバーとプログレスは立場は平等で、かけがえのないパートナーで、そんな序列を作ることは間違っている、と。
…でも、私は言い返すことができない。
彼らの言葉もまた、的を得た真実だから。
私は、大河さんーーー最高のアルドラさんがいてくださったから、彼が私の可能性を目覚めさせてくださったから、今ここでエースの称号を名乗ることを許されているに過ぎない。
彼に会わなければ、確実に今の私はない。
そしてーーーリンクのない私はーーー翼のない私は、ただの一人のプログレスでしかない。
唇を噛んで俯く私の耳に、また声が聞こえた。
「…生意気なんだよ、出来損ないのくせに。リンクが成功したからって喜びやがって。それもエースの一角としかリンクが物理的にできないだと…?舐めやがって…!!」
再び拳が、今度は天羽さんの鳩尾に向かって突き刺さった。
「がっ…ぐふっ…!!」
苦しそうな声を出して崩れ落ちる天羽さんを高みから見下ろした後、リーダー格の男の子は私に向き直る。
「…先輩、こいつは落ちこぼれなんですよ。なにもできないお荷物なんですよ。俺たちがあれだけブルーミングバトルでめちゃくちゃ痛い思いをしてるのに…全部プログレスの痛みを肩代わりしてやってるっていうのに…こいつはリンクできないからそれを体験したことだってない。なのにーーーこいつはあんたとはリンクできるなんてぬかしやがった。おかしいでしょ?なんで努力してきた俺たちじゃなくて、落ちこぼれのこいつなんだよ。…あぁ、そういえばあんたも赤の世界じゃ出来損ないだったんでしたっけ。出来損ないと出来損ないで、ある意味いいコンビなのかもしれないっすね。」
彼がそう言ったときーーー
「……取り消せよ…。謝れよ…。」
壁に手をつきながら、よろよろと立ち上がった天羽さんが、リーダー格の男の子に向かってまっすぐに視線を向けて言った。
「…はぁ?」
心底疑問に思っているらしい彼に、天羽さんは強い口調で叫ぶ。
「先輩のこと…出来損ないって言ったじゃないか…先輩は…僕なんかよりすごい人で…優しくて…声をかけてくれて…僕の恩人なんだ…取り消せよ…今の言葉、取り消せよ…!!それから先輩に謝れ…謝れよ…謝れって言ってるだろ!!謝れ!!」
…さっきの図書館の時もそうだったけれどーーー私は、彼がこんなにも感情を露にしたのを見たことがなかった。おそらく彼らもそうなのだろう。だがーーー
「騒ぐんじゃねぇよ、この役立たずが!!」
「がっ…あ…!!」
それでも力の差ははっきりしているとでも言うように、リーダー格の男の子は天羽さんを強く蹴り飛ばし、再び土に転がった彼に向かって冷たい目を向ける。
彼の唇が、非情な一言を紡ぎ出した。
「ーーーおい、うるさいこいつをもっと痛めつけてやれ。アルドラとして、もう立ち直れないくらいな。」
「ーーー了解シマシタ、マスター。」
話し方や見た目、仕草、そしてαドライバーへの呼び方からして白の世界のアンドロイドであろう女の子が、天羽さんに向かって手を伸ばす。その拳の周りに瞬く、いくつもの紫電の塊。
これから行われるであろう光景が、私の頭の中に、瞳に、克明に映し出される。
やめて。
これ以上、天羽さんを傷つけないで。
天羽さんから、リンクが繋がれることはない。
どうして。
私はここにいる。
なのに、どうして。
学園の規則だから?
私が頼りないから?
リンクがあれば、助けられるかもしれないのに。
私がーーー天羽さんを守らなくてはならないのにーーー!!
「やめてーーーやめて!!やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
その紫電を纏った拳が、動けない天羽さんの胸ーーー攻撃を受ければ、きっと生きてはいられないところへと打ち込まれようとした瞬間ーーー
「ーーーーーーストップだ!!」
私が、ずっと耳にしてきた声。
元気付けてくれた、とても頼もしい声。
それが聞こえた瞬間ーーー天羽さんと女の子の間に、ごおっ、という、風が空気を切り裂く音とともに、一人の人影が躍り出た。その影の主ーー、自分の巻き起こした風に髪を揺らして二人の間に割り込み、天羽さんを守るように立ちはだかった美海さんは、そのまま右手に握った白銀に輝く細剣を横に薙いだ。がぎぃぃん!という、重く鋭い金属同士がぶつかる音とともに、白銀の旋風を纏った細剣によって、その拳があらぬ方向へと受け流された。拳が纏っていた紫電が、拳と細剣がぶつかった際に発生したのであろう紅蓮の火花と共に、細剣が纏った風によって次々と吹き散らされていく。
「天羽君、レミエル!!」
美海さんに続いて、大河さんが走ってくる。それを感じてなのか、美海さんが足元に旋風を巻き起こして私の方へと跳ぶ。美海さんが立っていたところにすかさず滑り込んだ大河さんが、再び天羽さんの前に立ちはだかり、へたり込むわたしの隣に降り立った美海さんと共に、彼らの逃げ場を塞ぐように前後から挟み込んだ。
「二人とも、心配したよ…なかなか戻ってこないし、荷物も置きっぱなしだったからね…まあでも、まさかこんなことになってるとは思わなかったけどね…。見つけられてほんとによかった…。」
大河さんはそこまで言って、男の子たちに向き直る。
「…ちっ、風紀委員長と生徒会長かよ…。つまんね。」
背の高い冷静な声の男の子が、吐き捨てるように言う。それに構わず、大河さんは彼らに言った。
「…君たち、新入生の子たちだよね。学内での無闇なαフィールドの展開やエクシードの使用はだめって、ちゃんと 学生手帳の規則に書いてあるんだけどね。確認不足だったかな?あぁ、勘違いしないこと。僕や美海は風紀委員と生徒会ってことで、こういう危ないときに限ってエクシードを使うことが許されてるだけだから。普段何でもないときに使ったら僕たちだって叱られるし、力を使ったら使ったで何で使ったのか後で書類で提出しなきゃいけないからね。結構面倒な手続きなんだよ?」
「あれー?そうだったんですか?確認不足でした!!ごめんなさーい!!」
陽気な女の子が、そんなことは知らないとでも言うように言う。
「…でも、キミたち、ただエクシードを使っただけじゃないよね?どうしてこんな弱いものいじめみたいなことをしたのか、詳しく教えてくれないかなぁ?」
普段は温厚なはずの美海さんが静かに発した声に、彼らが一瞬たじろぐ。だがーーー
「いやぁ、日向先輩、すみませんけど、この状況、明らかに俺たちが弱者でしょ?そこの役立たずはともかく、この場にはEXR(エクス・リベリオン)クラスのあんたを含めてエースが二人もいるんですよ?それにそっちにいるのは、最高のアルドラと名高い風渡先輩ときたもんだ。正直、風渡先輩とどちらかお一人だけでも、俺たちごとき捻り潰すのは簡単でしょ?それは弱いものいじめとは言わないんですか?」
リーダー格の男の子が、してやったりという顔でそんな理屈を言った。そのまま、彼はその減らず口を解放し続ける。
「そういえば先輩たち、こいつの特訓とかしてるらしいじゃないですか。俺たちの学年でも結構有名っすよ?…ほんと、無駄な努力で自分達の時間を無駄にするのがお好きみたいっすね。使えないやつを使えないままにしておけば、こいつは尻尾を巻いて学園から出ていくしかなくなって、あんたたちの負担も減って、めちゃめちゃ万々歳じゃなかったんですか?…そもそも、こいつの言うことはいつもいつも虫酸が走るんですよ。アルドラとプログレスは平等?…はっ、まったくもってお笑いだ。そんなもの、あんたたちのような成功者の言う屁理屈でしょ?たまたまそういう関係になれたから、その力を持つことができたから、だからそんな綺麗事が言えるだけだろうが。そもそも、プログレスの強さはアルドラの強さだ。アルドラが必死で痛みに耐えるから、俺たちの力を電池のように使わせてもらえるから、こいつらは何の苦労もなく戦えるんですよ。だったら、アルドラ上位の序列ができて当然でしょ?たまに戦ってやってるのはこっちだとかいう馬鹿なプログレスもいますけどね、毎回医務室送りにされるのは俺たちアルドラだけ。αフィールドに守られていればいいプログレスは痛みを全部押しつけてぴんぴんしている。それでいてそんなことを言うもんで、もう毎日毎日腸が煮えくり返る思いだった。だから俺たちのプログレスは、俺たちに唯々諾々と従う奴らだけ。それでうまく行って、ある程度の実力をつけられた。だから俺たちは正しい。普通の現実を知っている。だから知ってる。こいつのやってることは、あんたたちのやってることは、時間を無駄にするだけの馬鹿げた話で、プログレスとアルドラに序列がない、そんな上手い理想論のような話なんてないんだってなーーー!!」
「ーーーーーーふざけるなっ!!」
高笑いを始めるリーダー格の男の子に向かって、倒れていたはずの天羽さんが、再び壁に手をつきながら立ち上がる。何かの拍子にお口の中を切るか何かしたのだろう。拳を受けて腫れ上がった頬を、唇の端から少しずつ流れ出る血が濡らしている。それにも構わずに、天羽さんは彼を睨み付けて、これでもかと言うくらいに大きな声で叫ぶ。
「それ以上…先輩たちを馬鹿にするな…プログレスたちを馬鹿にするな…!!先輩たちは…こんな僕を見捨てないでいてくれた…声をかけてくれて、一緒に特訓を申し出てくれたレミエル先輩…忙しい中で、特訓に付き合ってくださって、レミエル先輩とのリンクができることに気づかせてくれて、僕の可能性を僕自身に気付かせてくださった風渡先輩と日向先輩…その他にも、ソフィーナ先輩、ガーディーヴァ先輩…たくさんの人が…僕を支えてくれている…可能性を信じてくれている…僕のことを馬鹿にしたければ好きにすればいい…でも…その先輩たちも馬鹿にするなんて…僕は…僕はそんなこと…絶対に許さない…!!プログレスたちに対してだってそうだ…僕たちが戦う力を持っていない…実際に危ない目に遭っているのは彼女たちだ…僕たちは痛みを肩代わりすることしかできない…だから、危ない目に遭っているはずの彼女たちの無事を祈るんだ...
必ず元気に帰ってくるって信じるんだ…!!そのために、元気に帰ってくるために…彼女たちが思い切り戦えるように僕たちがいるんじゃないか…!!それなのに…そんな…プログレスを捨て駒みたいに…!!」
それを聞いた彼らは一瞬固まるが、途端に心底可笑しそうにお腹を抱えて笑い始める。
「ーーーーーーこの期に及んで…この期に及んでまだそんなことを言えることは誉めてやるよ!!でもだから何だ?それで俺たちを説得できたつもりかよ?大してブルーミングバトルもしたことのないやつが!!そんな綺麗事を並べたところでーーーーーー」
「ーーーーーー綺麗事じゃない!!」
気づけば、私は大声を出していた。
周りの視線が私に集まる。でも、そんなことはどうでもいい。
「ーーーあなたたちだって…天羽さんがどれほど頑張ってきたのか知らないくせに!!苦しい思いをして、落ちこぼれって言われ続けて…それでもプログレスの力になりたいって言って、ずっと頑張ってきて…涙を流してきた天羽さんの気持ち…それをまったく知らないくせに!!」
私は知っている。
彼の流した悔し涙を。
可能性を見出だしたときの嬉し涙を。
頑張り屋なところを。
誠実なところを。
何よりもーーー誰よりも優しい心の持ち主だということをーーー
「…さて、とりあえず、だ。」
大河さんが間に入ってくる。
「言いたいことを言い合ったみたいで、ここで後腐れなく終わるならいいんだけど…お互い、そんなわけはないよね。」
大河さんはそう言って、美海さんと頷き合う。大河さんは無線機にもなっている左腕の風紀委員の腕章を取り外して、それに向かって話しかける。
「もしもし、クラリス、アクエリア?僕だけど、二人と合流できた。それで、悪いんだけど、ちょっと頼まれてくれないかな?今から何とか、バトルルームの使用許可を下ろしてもらえるように交渉してみてほしいんだけど…僕の名前も出してくれていいから。うん、ごめん、急ぎなんだ。なんなら今度二人に駅前でケーキでも奢るから!!お願い!!…本当?ありがとう!!じゃあまた!!」
そう言って、大河さんは通話を切った。
「…そういうわけで、これからみんなでバトルルーム行きね。天羽君とレミエルはどうだかわからないけど、そっちのみんなは暴れたくて仕方ないみたいだし。」
「…あの…大河さん…もしかして…ブルーミングバトルを…?」
私の問いに、大河さんは大きく首を縦に振って言う。
「うん、そう。ただし、ルールは僕の方で決めさせてもらうけどね。…あ、そうそう、君たち、このままブルーミングバトルをしないで帰るでもいいけど、僕たちに見つかっちゃった以上、どのみち後日反省文を書きに風紀委員棟に来てもらうことになる。風紀委員の反省文は、先生方の反省文よりも辛いよ?…でも、結果によっては、その反省文を免除してあげてもいい。君たちにも悪くない条件だと思うんだけど。」
「えっとー、それってつまり、先輩たちと戦って勝てってことー?でもさっきも言ったけど、みうみう先輩とレミエル先輩と大河先輩が相手にいるんでしょ?さすがにあたしたち勝ち目ないっしょ。アンフェアすぎー。」
陽気な女の子が苦い顔で言うのを見て、大河さんが言う。
「そうだね、ここで僕と美海が出ていっちゃったら、それこそただの弱いものいじめになっちゃうだろうね。だからーーー」
大河さんは、一息ついて、こう言った。
「君たち3組と、天羽君とレミエルの二人。これが人数分けだ。」
ーーー大河さんが何を言っているのか、私にはわからなかった。
ブルーミングバトルをしろ、というのはわかる。
だが、実力が未知数とはいえ3組を相手に、ほとんどブルーミングバトルをしたことがない天羽さんを戦わせるというのか。
「た…大河さん…だめです!!天羽さんは怪我をしてるんです…それに、私たちとの特訓の時以外はブルーミングバトルをしたことがないんですよ!?」
「うん、それは承知の上だよ。」
叫ぶ私に、大河さんが言う。
「なら、どうしてーーー」
そう言う私に、大河さんは真剣な顔で、こう言った。
「レミエル。君は、天羽君が君の専属になった日、彼が何て言ったか覚えてる?」
「…えっ…?」
「…僕は覚えてる。彼はこう言った。『自分は、レミエルの力になれるのか』って。」
もちろん、覚えている。
彼のその言葉を聞いて、私は彼とーーーそして自分の殻を破るべく、天羽さんを専属アルドラとして受け入れたのだから。
大河さんの言葉は続く。
「レミエル、君はさっき、どうして彼らに対してあんなに強く怒ったのかな?だって、ちょっとひどいことを言うみたいだけど、天羽君がいじめられたって、君に何かされたわけでもないんだから、それだけでは怒る理由なんてないんだよ?なのに、どうして?
それはーーー彼が何か言われているのに、君自身が黙っていられなかった…黙っていたくなかったからじゃないかな?
パートナーがひどいことをされていて、ひどいことを言われていて、それに対して納得がいかなかったからじゃない?」
ーーー確かに、その通りだ。
声をかけた者として。
パートナーとして彼を選んだ者として。
そんな義務感ではなく、ただ単純に、彼がひどいことをされているのが、ひどいことを言われているのが納得がいかなかったから。許せなかったから。
今は、そう言える。
だがーーー
「…でも…でも…それでもだめです…怪我をしているのに、それで、まだほとんど経験のない…しかも多人数相手のブルーミングバトルなんて…!!」
「レミエル。」
大河さんが、私の言葉を遮るように言う。それに合わせて、美海さんが私に言った。
「レミエルちゃんーーー大丈夫だよ。
私は大河君の気持ちのすべてはわからないけどーーーでも、これだけは言える。
大河君は、絶対に無謀な賭けに出てるわけじゃない。
きっと、何か思うことがあってーーー二人に勝算があるから言っているんだと思う。
大河君、嘘をついたことなんて一度もなかったでしょ?
だからーーーきっと大丈夫だよ。」
大河さんは、今度は天羽さんに向き直って言う。
「天羽君、君の言ったあの時の言葉。その言葉に、嘘なんてないよね。
もちろん、君がどう思うか、レミエルがどう思うかにもよるよ。もしかしたら君たちは、別に喧嘩なんてしたくないかもしれないからね。」
それを聞いた天羽さんはーーー
「…僕は…レミエル先輩の力になりたい…僕を助けてくれたみたいに、困っていたら助けたい…泣いていたら、話を聞いてあげたい…αドライバーとして…先輩を支えたい!!僕のせいで先輩が馬鹿にされるのは納得がいかない…!!
先輩ーーーわがままを言ってしまって、本当にごめんなさいーーー
でもーーーそれでもーーーわがままを通すためにーーー僕の可能性を目覚めさせるために…レミエル先輩を守れるんだって証明するためにーーー力を貸していただけないでしょうか…!!」
…それほどまでに。
それほどまでに、彼は私のアルドラでいようとしてくれている。
どれだけ傷ついても、戦いの中でもっと傷つくことになるかもしれないとしても。
「ずるいです…天羽さん…。
そんなことを言われたら…協力しないわけにはいかないじゃないですか…。」
私の口から出たのは、そんな言葉。
だが、それは嫌な想いから出た言葉ではない。
純粋にーーー天羽さんの気持ちが嬉しかった。
私は、天羽さんをしっかりと見て言う。
「天羽さんーーー私に力を貸してくださいーーーαドライバーさんとして、私と一緒に戦ってくださいーーー!!」
「決まりだね…じゃあ、君たちはどうする?さっきも言ったけど、反省文付きでいいならこのまま帰ってくれたっていいけど。君たちとしても、おもしろくないと思ってる彼を、僕たちの黙認のもとに痛い目に遭わせるいい機会だと思うんだけどね。…ついでに言えば、今美海が言ったこと。僕の考えにぴったりビンゴだ。この二人はーーーレミエルの実力もそうだけど、それ以外ーーー今は何とは言わないけど、それを含めれば、君たち全員を相手にしても十分に勝算があるって思ってる。舐めてかかったらーーーきっと痛い目を見ることになるよ。」
大河さんが、彼らに言う。
「…面白ぇ…その勝負、乗ってやりますよ。」
にやりと笑いながら、リーダー格の男の子が言う。それに続いて、
「…まあ、遊びくらいにはなるんじゃね?」
「…同意。」
「ああ、じゃ僕も。どんなことになるのか、ちょっと楽しみだ。」
「ま、うちの相棒がいいなら、あたしもいいよー。」
どうやら、全会一致のようだ。
大河さんは美海さんに向き直って言う。
「よし、決まりだね。美海、ジャッジをお願いできる?」
「うん、了解だよ。」
頷く美海さん。大河さんはそれを聞いて、大きく頷いて言った。
「よし、じゃあみんなで移動だ。ルールを守って、君たちの可能性、プログレスとアルドラの絆、全部を出しきってーーー
…後腐れなくすっきり終われるように、思いっきり喧嘩してきて。」
解説編 第二回
・キャラクターさんのお名前の有無と原作との関係
今回だけでなく、前回及び前々回や今後考えているお話も、読んでいただけると、今回、キャラクターさんのお名前を出さなかった部分がありますです。実は、そう言った場合、そのキャラクターさんは私が頭の中で即興で作ってしまっただけで、原作での雰囲気が似たようなキャラクターさんとは一切の関係はありませんです。ご了承くださいです。
・美海ちゃんの二つ名『EXR(エクス・リベリオン)』とその他の序列
作中で美海ちゃんが『EXR(エクス・リベリオン)』と呼ばれていますですが、こちらはアニメさんにおいてこう呼ばれていたことを基にして、そのままの呼び名を使わせていただいていますです。また、アニメさんには他に、きちんと呼び名がわかっているものでは、『SR(スペリオル・リベリオン)』、その下にある、読み方はそのままで『R』、『UC』などの強さの序列があるみたいなのですが、詳しく設定がわかっているわけではないので、アニメさんをご参照の上で、どうお考えになるかをご自身で考えてみるのもおもしろいのかな、と思いますです。
また、これに関しては、学園のクラス分けと考えることもできると思うのですが、私のお話の中では、特にクラス分けに関しては考えていませんです。なので、クラスの中には、そういった序列における呼び名はあれど、それらによってクラスが決まるわけではなく、一教室にいろんなプログレスさんやアルドラさんがごっちゃになっている、とお考えくださいです。
3章 終
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