『Aile de Lien-新たな絆と羽ばたく片翼-』 Ange Vierge if episode vol.1 “Ramiel”
設定原作、設定出典
『TCG Ange Vierge(アンジュ・ヴィエルジュ)』 メディアファクトリー
『アニメ アンジュ・ヴィエルジュ』 KADOKAWA、SEGA
『アンジュ・ヴィエルジュ ガールズバトル』 セガゲームス 、f4samurai
著:Kokoro
…さて、記念すべき1作目なのですが、レミエルちゃんの視点からのお話なのです。
非常に人気の高い子であり、彼女をお友達と思っていらっしゃる方々を特別な呼び方をする、というお話をお聞きしたのですが、そういった皆さんだけでなく、様々な方々に読んでいただきたいと思って、頑張っていろんなことを考えましたです。
実は、このお話は一番最初に考えたお話ではなく、別のお話を書いている最中に、
「…これの前にいろんな子のお話を入れ込んだら面白くなるのでは…?」
…という、かなりいきなりの路線変更で生まれたものでもありますです。
ここを始まりのお話として、今後の展開がどうなるのか、最後にはどうなってしまうのか、想像を膨らませつつ読んでいただければ幸いなのです。
では、はじまり、はじまり、なのです~♪
第1章『傷を持つ者同士の出会い』
「---エクシードリンク、解除(アウト)!!…みんな、お疲れ様!!」
通信機から聞こえる声と共に、αフィールドが消える。
「…いててて…。二人とも、もうちょっと手加減してくれよ…!!風渡も、何本気で美海ちゃんたちとリンクしてるんだよ?痛すぎて軽く死線が見えたっつーの!!」
「ご、ごめん、ちょっとやりすぎたかも…。でも、そうは言っても、基本的に僕、誰とリンクしても最低でもレベル4にはなっちゃうわけで…。」
「おーおー、最高のαドライバーはやっぱり言う事が違うぜ…。余裕の現れか?」
「いやいや、そんなことないよ。」
「それが余裕だって言ってるんだよ。まあ、その謙遜が全然嫌みじゃないのが、お前の長所だけど。」
そんな風に、今まで私たちとリンクしていたαドライバー…風渡 大河(かざわたり たいが)さんが、お相手のαドライバーさんとお話をしている。
「…あの…。痛くしちゃって本当にごめんなさい…。その…。大丈夫でしたか?」
私はそのαドライバーさんに、ぺこりと頭を下げる。
「あー、レミエルちゃん、大丈夫大丈夫。戦うのは君らプログレスの役目、それをサポートして、ダメージを受けるのが俺らαドライバーの役目ってな。そもそも、俺がこいつに特訓頼んだんだ。何かあればこいつ、スクランブル発進常連組だし、こいつにばっかり負担かけるわけにもいかないしな。俺たちのチームの刺激にもなるし、このくらいで済んだら安いもんだ。痛みは耐えた分だけ男の勲章になる、ってな。…というのは建前でだな…いつまでもこいつにばっかりいい顔させられるかってんだよ!!美海ちゃんが彼女ってだけでも周りの野郎どもからすればうらやましいことこの上ないってのに、こいつの周りにだけはかわいい子ばっかりがいつもいつも津波のごとく押し寄せる!!くそ…どうしてこいつばっかり…!!やっぱりあれか、最高のアルドラだからってことなのか!!」
「ふえっ…!!ええと…あの…その…。」
大きな声にびっくりした私を見かねたのか、大河さんがこっちにやってくる。
「はいはいそこまで、レミエル困ってる。…あ、遅くなっちゃったけど、レミエル、お疲れ様。…ごめんね、いきなり付き合わせちゃって。」
「…あ…い、いえ、そんなことはないです!!むしろ、私なんかを誘っていただいて…だからあの…ええと…。と、とりあえず、休憩してきます~!!」
恥ずかしくなって、途端に悲鳴を上げてその場から逃げ出す私の耳に、
「…だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!この天然ジゴロが!!そう言う事か、嫌みにしか見えないが全然嫌みじゃないのが逆に怖いというが、つまりはこういうことか!!」
「えぇ!?いや、意味わからないよ!!だいたいいつ僕がジゴロっぽい台詞なんて言ったのさ!?」
…という会話…というよりも叫び声が聞こえてきて、さらに恥ずかしくなってしまう。
…本当に、大河さんは自覚がなさすぎます。
今は美海さんがいることがわかっているから、そんな大それたことはできないけれど…そうでなければ、この優しさや気のまわし方を見せつけられたら、誰だってその気になってしまうだろう。
美海さんと付き合う前からのあの性格は、一生治りそうもなさそうだ。
「レミエルちゃん、お疲れ様~♪」
その場から離れて一息ついていた私に、私や大河さんと一緒にブルーミングバトルに参加していた美海さんが近づいて声をかけてくる。
「…あ…美海さん、お疲れ様でした。」
「えへへ、レミエルちゃん、今日もサポートありがとー。ちょっと危なかったところもあったけど、レミエルちゃんの援護があって助かったよー。」
「あ…いえ!!ええと、私、そんなことしかできないので…。」
「ううん、そんなことじゃないよ!!私があの時狙われてるのに気づけなくて攻撃を受けてたら、大河君に痛い思いをさせちゃってたところだもん!!だから、ありがとう♪」
にっこり笑顔を見せる美海さん。
…ちょっと悔しいけれど、やっぱり、お二人はお似合いだと思う。
プログレスとαドライバーとの関係は、青蘭学園の役割が今のように変わってもなお、お互いにお互いがいなければ何もできない、と考える心無い人が少なくない。
そんな中、一番最初に「お互いにお互いを心から認め合う」ことで、自分たちの可能性を見出し、実力をつけ、今となっては誰にも文句を言わせないプログレスとαドライバーに成長したのが、美海さんと大河さんのお二人だった。
もちろん、これはお二人の人柄によって生まれたものであることも間違いない。お二人とも、人と関わるのが本当に好きで、なおかつ、一度お知り合いになった方を信じ抜くこと…特に、お互いを信じる心の強さは、おそらく学園の中でも比肩するものはいないだろう。
…私にはわかる。
だって、私もお二人に救ってもらった一人なのだから―――――--
「それじゃ、レミエル。また明日。美海、じゃあ行こうか。」
「うん!!久しぶりの帰り道デートだー♪レミエルちゃん、ばいばーい。」
「はい、また明日、お気をつけてです。」
お話が終わったらしい大河さんと合流した後、私はバトルルームを出たあたりでお二人とお別れした。お二人が手を繋いで歩く後姿を見て、やっぱりちょっと羨ましいな、ううん、お二人はお付き合いしてるんだから、こんなこと思っちゃだめだよね、と思いつつ、私は教室に置いてきた荷物を取りに、校舎に向けて歩き出す。
(…あれ?)
渡り廊下に差し掛かったところで、私は足を止める。
そこには、男の子がいた。
遠目からだったけれど、私には彼が肩を震わせている―--泣いているように見えた。
男の子でこの学園の制服を着ているということは、αドライバーで間違いない。遠目から見ても真新しく見える制服は、今年から入ってきたのであろう新入生…エルエルちゃんたちと同じ学年なんだろう、ということはなんとなく想像がついた。
「…あ、あの…。どうしたんですか?」
気がついたときには、私は彼に話しかけていた。
「えっ…あ…!!」
彼は私の顔を見るや、途端にびっくりした顔をする。
「あ…ご、ごめんなさい、驚かせちゃったみたいですね…。ええと…私、レミエル、っていいます。今2年生で、赤の世界出身の天使で…あ、天使といっても、翼は片方しかないですけれど…。」
「は…はい!!先輩のことは、新入生オリエンテーションの時に存じ上げています!!こ…こちらこそすみません、格好悪いところをお見せしてしまって…。」
…言われて、私は途端に恥ずかしい気持ちでいっぱいになってしまった。あの時、私はアマノリリス様にいきなり新入生オリエンテーションの運営を任されて、自分にそんな大役が務まるのかと怖くなってしまって、当日になって逃げてしまったのだ。大河さんが探しに来てくれて、元気をいただけて、それで何とか戻れたからよかったけれど…。
「はぅ…。ご、ごめんなさい…。あの時はどうしていいかわからなくて、新入生の皆さんをすごくお待たせしちゃって…。」
「…いえ、そんなことないです!!その…すごく楽しい…わくわくしたオリエンテーションでしたから!!」
彼はそこまで言って、途端に声をすぼませて話し始めた。
「…実は、僕、落ちこぼれなんです。αドライバーなのに…。プログレスの…みんなの力になりたいのに…。なのに、入学以来、僕は誰ともリンクが成功すらしない…。」
「あっ…。」
これを聞いて初めて、私は彼にどうして話しかけたのか、それがなんとなくわかった気がした。
彼は、私に似ている。
ここに来たばかりの時…ただ泣くことしかできなかった、あの時の私に―――--
-テラ・ルビリ・アウロラ-私の故郷。七女神様の力によって守られた、みんなの心を癒し、笑顔の絶えない、温かな赤の世界。
私は、天使としては不完全な---片翼しかもたない天使として生まれた。それゆえ、物心ついたころから、あるいはそれよりもずっと前からかもしれない。私の背中には周りからの奇異な目が、心には心無い言葉が、体中には乱暴された痛みが突き立てられた。
---この温かなはずの世界で。
どうして、私は変な目で見られるのだろう。
どうして、私は心無い言葉を浴びせられているのだろう。
どうして、私は体中を叩かれて、痛い思いをしているのだろう。
どうして、私は生まれてきたのだろう。
どうして、私は生きているのだろう。
どうして、どうして、どうして――――――--
そんな考えが、頭の中から、心の中から抜けていくことはなかった。
そんな中、青、黒、白、そして赤の世界の接続-ワールド・コネクト-と後に呼ばれるようになった現象が起こった後、私は異能の力-奇跡を起こすエクシードを見出されることになり、地球、と呼ばれる青の世界、4つの世界が接続した折に空に浮かび上がったという、各世界への門-ハイロゥ-の真下に位置する学園島、青蘭学園へとやってきた。
その時の私は、初めて自分の意志で行動していたと思う。最初こそ、それを薦めてくれたガブリエラ様の言うことを聞いて、なし崩し的に来たように思っていたけれど…今から考えると、なんだかんだと言いながら、何かが変わるかもしれない、変えられるかもしれない、そんな根拠のない、淡い希望を抱いていたのだ。
…そんな希望が打ち砕かれるのは、本当に一瞬で、驚くほどに簡単だった。
図書館に行った時、私はふとしたことで、ある本に出会った。
それは、青の世界の宗教に関する本。
天使の事柄も載っているのを見て、「あ、この世界にも天使はいるんだ」と、ちょっと嬉しくも思ったものだった。
でも、読み進めているうちに、所々にある挿絵を見て、私は気づいた---気づいてしまった。
この世界の天使も、白くてきれいな翼…場合によっては、2対、3対の翼を持っていたのだ。
当然と言えば当然だが、私のような片翼の天使はいない。
だんだんと震えを帯びる手で読み進めているうちに---私の手はあるページで止まった。
そのページの見出し。
『堕天使について』
堕天使---神様に嫌われて、白い翼を奪われてしまった天使。
神様に嫌われてしまった天使は、たとえ嫌われる前においてどんなに神様に愛された高名な天使であったとしても、その瞬間に翼を奪われ、悪魔と呼ばれ忌み嫌われる存在へと堕ちる。
そこにあった挿絵---かつて「光をもたらすもの」と呼ばれ、最も神様に愛されたという高名な天使…その翼が、私たちも知っている気高く清い鳥のような白い翼ではなく、黒く汚れたコウモリのような翼に変わっているというその挿絵を見て、私はその瞬間、目に涙を浮かべて図書館を飛び出していた。
その日は、雨が降っていた。
私の心の曇りを転写したような、そんな厚い雲がかかった空が流した涙が、私の金色の髪を、頬に向かってとめどなく涙が伝う顔を、真新しい制服を着た全身を、そして―--私の負の象徴である片方しかない翼を濡らした。それにも構わずに、私は声を上げて泣いた。
そういえば、私の姿を見た人の多くは、やっぱり怪訝な顔をしていたような気がする。それは、私のことを知っているはずの赤の世界出身の人たちに限った話ではない。青の世界の人も、黒の世界の人も、白の世界の人も。
それは、天使というのは白い翼があるのが1対はあるのが当たり前、というような常識が、どこの世界にもあるからではないのか。
…少なくとも、青の世界にはそんな常識があるのだろう。そうでなければ、この世界にある本にあんなことが書いてあるはずがない。
私は、何をしにきたのだろう。
何かを変えるため?
希望を持ってここにやって来た?
…一体何を考えているんだろう。
赤の世界にいた方が、まだ惨めな思いをしなくてもよかったのではないのか。
確かに、変な目をされたり、悪口を言われたり、体中を叩かれたりするのは辛かったけれど。
でも、それさえ我慢してしまえばよかっただけなのではないか。
別の世界では楽になれるなんて、誰が言った?
他の世界では馬鹿にされることなんて絶対にないなんて、誰が言った?
結局、そんなのは私の都合のいい想像でしかなかった。
---やっぱり私は、すがるべき神様にすら見捨てられ、そして忘れられた、鬼子の天使。
自分が片翼であることだけじゃない、今までが辛かったからでもない。そんな何の根拠もない、都合のいい言い訳から来る希望などにすがろうとした自分の弱さが、どうしようもなく悔しくて、そんな自分が許せなくて、でも私は何もできなくて、声を上げて泣くことしかできなくて。
そんな経験をした私だからこそ、彼の気持ちは痛いほど理解できた。
彼の言葉は続く。まるで、やっと言えた気持ちすべてを吐き出しつくさんとするかのように。
「…もちろん、αドライバーとしての力を見出していただいて、こんな僕を学園に呼んでいただいて…すごく感謝しているんです。仲のいい友達だってできて、先生方も親身になってくださって…。…でも、だからこそ、僕は自分を許せない…許したくないんです。だって、誰ともリンクのできないアルドラなんて、お荷物…以下ですから…。この前、クラスのプログレスの子にも言われたんです、『やる気がないなら、学園から出て行け』って…。頑張ってるのに…役に立ちたいのに…。やる気だけ空回りして、全然結果がついて来ない…。結果がすべてのこの世界で、僕の居場所なんて…どこにもないのかも…。」
そこまで言って、彼ははっとして、私に頭を下げた。
「あ…す、すみません…相談に乗っていただこうとか、そんなんじゃないのに、自分のことばかり…。」
「あ…い、いえ!!私は大丈夫ですから!!その…頭を上げてください…。」
私はあわてて、彼に声をかける。
「…あ、あの…あ、えと、お、お名前…お聞きしても大丈夫でしょうか?」
「あ…ぼ、僕、翔(かける)って言います…天羽 翔(あまは かける)・・・。」
「ええと…じゃあ…天羽さん、お話しして下さって、本当にありがとうございます。お辛い気持ち、すごくわかります。…私も、そうでしたから。」
「えっ…?」
目をぱちくりさせる天羽さんに、私は自分の生い立ちを話し始める。赤の世界で鬼子として扱われたこと、青の世界での絶望の記憶、それを包み隠さず。
「…そんな…先輩の方が、僕よりももっと苦しい思いをしてきたんじゃないですか!!…それなのに…それなのに僕は…!!」
「あ…あの…そんなにお気になさらなくても大丈夫ですよ。…実は、このお話には、ちょっと嬉しい続きがあるんです。」
「…嬉しい…続き…?」
「はい、ええと、これからそれをお話ししたいと思うんですが…。聞いてくださいますか?」
私の言葉に、彼は真剣な顔をして言った。
「…お願いします。聞かせてください。」
その言葉を受けた私は、あの後…図書館を飛び出して雨の中で泣いていたときのことを話し出した。
「---私が泣いていた時のことです。突然、声をかけられたんです。『どうしたの?』って。ちょうど、私が天羽さんに声をかけさせていただいた時みたいに…。
顔を上げた時に目の前にいたのは、男の子と女の子でした。男の子は傘を差しだしてくれて、女の子は私を不安にさせないために、『ごめんね、驚かせちゃったね。大丈夫、大丈夫だよ』って言いながら、私が落ち着くまで、自分の制服が濡れてしまうのも構わないで、私をぎゅっと抱きしめていてくれたんです。
それから、お部屋…あ、その時は男の子のお部屋の方が近いということでそちらに伺ったんですが、お風呂やお着替えの体操着まで貸してくださって、私の弱音もたくさん聞いてくださって…お友達になりたい、って言ってくださって…。その時、そのお二人はこんなことを仰ったんです。
自分たちは、天使のお友達が欲しいんじゃない。
私が私だから―--レミエルだから、お友達になりたいんだよ、って――――--」
そう、私はその時、美海さんと大河さんのお二人に救われたのだ。
あの時から、私は変われた。
未だに、私は失敗ばかりだけれど。
でも、あのお二人と出会えて。一緒に成長することができて。
少しだけ…ほんの少しだけでも、自信を持つことができた。
この時のことを覚えていたから、私はお友達をなくさなくて済んだ。
あの時—ウロボロスの陽動に騙されて、大河さんをはじめとしたすべてのαドライバーが封印された時。私や美海さんたちとリンクしていた大河さんから流れてきたウロボロスの意識の浸食によって、ウロボロスの刺客として青蘭学園に牙を剥いてしまった時。
あの時、私の元に来たエルエルちゃんは、私にこう言った。
「――あたし、翼なんてどっちでもいいもん!!
レミエルちゃんでいてくれたら…そんなの関係ないもん!!」
その時、私の心に浮かんだのは、目の前のエルエルちゃんの笑顔だけじゃなかった。
私が泣いている時に声をかけてくれた、美海さんと大河さんの顔も、私の心に確かに浮かんだのだ。
私は、エルエルちゃんにひどいことを言ってしまったのに。ウロボロスの意識の干渉があったとはいえ、大切なお友達に、「あなたなんて、もうお友達じゃない」なんて言ってしまったのに。
それでも、エルエルちゃんは私のお友達でいてくれた。そして、エルエルちゃんの言葉が、私がずっと心に仕舞っていた、あの時のことを呼び起こしてくれた。ウロボロスからの支配を打ち破る力として、その時の喜びを呼び起こしてくれた。かつて、コンプレックスに悩み、世界に絶望し、生きる目的など忘れようとしていた私を救ってくれたお二人のように――--
「そのお二人とは、まだまだお友達です。…なんか、変ですよね。誰も味方なんてできないと思っていたのに…。でも、実際にその言葉に、私がすごく救われたのは事実なんです。お友達もいっぱいできました。私は不幸から、一転して幸せ者になったんです。」
そこまで言って、私は彼に向き直る。…と同時に、目があった瞬間、途端に恥ずかしさが襲ってくる。うぅ…どうしてこんな時に…。
「えと…。つまり…何を言いたいかというと…ですね、誰も見ていないと思っても、意外に見てくださる方はいらっしゃると言いますか…。その…ええと…。」
あぁ…言いたいことではあるけれど、さすがにグダグダしすぎている。
私が自分の勢いのなさに頭を抱えていると――――--
「…ありがとう…ございます…。」
彼は、また泣いていた。
「えっ…!?あ、あの…。私何か変なこと言っちゃいましたか?…もしかして、そんな気休めはいらない、とか、そんなこと言ってほんとは微塵もそんなこと思ってないんでしょとか…!?はうぅ…!!ごめんなさいごめんなさい!!そんなつもりはなくて…その…ですから…!!」
「…すみません…。こちらこそすみません…。その…嬉しくて…。だって、誰も見てくれないと思っていたら、エースの一角に名を連ねているすごいプログレスの先輩が声をかけてくださって…僕を元気づけようとしてくださって…!!」
…この時、私はきっと、すごく変な顔をしていたのだと思う。
感謝することは多々あれど、感謝されることには全然慣れていなかったから。
そして、こんな私でも、誰かを救えるかもしれない、そう思えたから―――--
「あの…天羽さん。」
私は、彼に提案を持ちかけていた。
「…その…もしもよろしかったら、私たちと一緒に練習してみませんか…?先ほどお話ししたお友達のお二人もいるので、何かヒントを得られるかも…。お二人なら、きっと協力してくれます。私がお願いしてみます。お役に立てるかはわからないですけど…私も精いっぱいお手伝いします!!」
…勢いで言ってしまったが、正直なところ、あまりにもハードルが高すぎるのでは、と思った。
彼は新入生だ。いきなり先輩に練習に付き合うよ、なんて言われたら、無理強いされたと思われて逆に縮こまってしまうかもしれない。そのことに気がついた私は、あわてて彼に向かって両手をぶんぶん振りながら言う。
「あ…も、もちろん、無理にというわけではないんです!!天羽さんにもお友達のお付き合いとかあると思いますし、そもそも、ええと、先輩の無理強い…?みたいな、そんなものでもないので!!その…興味がもしあるなら、私たちの教室に訪ねてきてくれれば、くらいのもので…。」
…あぁ、どんどん見苦しい言い訳の沼にはまっていっている。
…でも、言ったことを撤回はしない。したくない。
私は、天羽さんのお話を聞いた。
私と同じような、コンプレックスに押しつぶされそうな苦しさを、自分の言葉で話してくれた。
私が声をかけたことで、笑顔を見せてくれた。
だからこそ、私は彼を救いたい。笑顔を取り戻してあげたい。
その気持ちに、嘘はなかった。
「…きっと…きっと伺います。いえ…伺わせてください!!僕は知りたいんです…どうしたらみんなの役に立てるのか…どうしたら、立派なαドライバーになれるのか!!」
彼の目には、まだ涙が浮かんでいる。
でも、その表情に、もう悲しさはなかった。
彼はそんな顔でまっすぐに私を見て、心からの笑顔で、そう言ったのだった------
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